“服を売るように音楽を届けたい”
2022.06.02

藤原ヒロシによる音楽NFTプラットホーム ABCRECORDS

NFT技術を逆手に取ったAuthorized Bootleg Community(承認された海賊版のコミュニティ)とは?




Edit&Text by Yukihisa Takei (HONEYEE.COM)
Photo by Yasuyuki Takaki


藤原ヒロシさんにNFTについて聞いてみた。

我らがHFこと藤原ヒロシが、音楽プロデューサーチームの ALLe(オールイー)とタッグを組んで、新しい音楽NFTのプラットフォーム ABCRECORDS(エービーシーレコーズ)を立ち上げ、2022年5月27日(金)に自らの楽曲50曲をリリースした。

キャッチーなネーミングのABCRECORDSの“ABC”は、Authorized Bootleg Communityの略だという。直訳するなら“承認された海賊版のコミュニティ”。実にHFらしい、遊び心と含みのある名称だ。

今回の取材は、近年賑やかになってきたNFT市場、そこに躊躇なく参入した藤原ヒロシ、というストーリーかと思いきや、実際にインタビューをすると、本人は冷静にこのNFTの騒乱の中に身を置いていることを認識しながら取り組んでいることが分かってきた。

NFTについて、そして音楽著作権との関係について、HFに迫った。


NFTABCRECORDSの革新性

ミュージシャン自らがNFTのプラットフォームから音楽を配信するのも十分画期的だが、そもそも今回のABCRECORDSの何が革新的なのかを最初に整理しておく。

[ABCRECORDSの特徴]

  • 購入音源のリミックスやサンプリングが可能かつ、配信が可能
  • 申請を行えばその音源のCD化・販売も可能
  • 購入音源を所定のNFTマーケットで転売して利益を得ることが可能で、アーティストにもロイヤリティの一部が還元される

上記を理解するには、そもそもNFTとは何ぞやということから整理しなければならないだろう。すでにNFTについてよくご存知の方は数行読み飛ばしてもらって構わない。

NFTとは“Non-Fungible Token”の略で、日本語では“非代替性トークン”と訳される。それは「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のことで、ブロックチェーン技術を活用することで、通常コピーが容易なデジタルデータに「唯一無二な資産的価値」を付与することが可能になる。それは暗号資産(仮想通貨)と同じくブロックチェーン上で発行され、取引されるため、新たな市場となっている。現在のNFTを簡潔に説明するとこうなる。

そんな難しい話はさておき、ここ数年の“NFT狂想曲”はご存じかもしれない。1枚のJPG画像に数億円の価値が付いたりしている情報はネットニュースを見ていると多数飛び込んで来るし、最近はアートやゲーム業界だけでなく、ファッション、プロ野球球団、個人、そして政治家(「岸田トークン」!)までもNFTを発行し始めている。

しかし“その価値”に対する価値観は、個人のレベルでは意見も分かれている。肯定、否定、無関心は人それぞれだが、いずれにせよ“新時代のやっかいな判断”を迫られている感覚を持っている人も多いのではないだろうか。


藤原ヒロシの3つ目となるNFT

今回の取材で最初に「ヒロシさんがNFTというものを理解したのはいつ頃ですか?」と聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「僕もまだ何も理解できていないですよ。2日前くらいにブロックチェーンが複数あるということを知って驚愕したぐらいですから。さすがにそこはひとつ(統一)なんだろうと思っていたので」

それでも藤原ヒロシはすでにここまでに2つのNFTプロジェクトをリリースしている。最初はライゾマティクスの真鍋大度とスタイリストの三田真一と手がけ、2021年9月にリリースしたFRGMTRZM NFT。そして今年2022年1月にレジェンドスケーターのマーク・ゴンザレスと共にリリースした NON FRAGMENT TOKENだ。FRGMTRZM NFTの「TEST#1」は25のエディションを発行、NON FRAGMENT TOKENは1万個がリリースされ、その1万個は即完した。

「でも僕は乗っかっているだけというか、テクノロジーの部分に僕は関知していないので。最初は友達の真鍋くんに誘われて『NFTで何かやろう』ということでやってみただけ。あの頃はまだNFTとも言っていなかったんじゃないかな。でも僕は、“しっくりこないと前に進めない”タイプでもないので」


NFTは要らなかったら買わない方がいい

藤原ヒロシが現在のNFTを取り巻く状況をどう思っているのか気になって聞いてみると、痛快なHF節で返してくれた。

「僕自身が唯一自分で買って持っているのは、スニーカーNFTSTEPNだけですね。その他のものは自分では買っていないです。NFTっていやらしくて、ウォレットにいっぱい持っている人は、(何かがリリースされると)それを貰ったことを名誉にする人が多いんですよ。『オレなんて(わざわざNFTを)買わなくても全部貰えるんだよ』みたいな。そういうのもいやらしい。だからね、結構NFTって現状ではダサくていやらしいものですよ(笑)」

HFによる痛烈とも言えるNFT観は続く。

「サウナやフェラーリと同じです。サウナにもフェラーリにもNFTにも罪はないけど、それを“語っている”のがダサいというか。そういうもののひとつだと思います。僕が本当に思うのは、NFTは要らなかったら買わない方がいい、ということ。だって高くないですか?(笑)。本当に良いと思った人しか買うべきものではないと思います」

つい最近も重鎮のブライアン・イーノが「アーティストがグローバル資本主義のおこぼれをもらう手段にしか思えない」という類の発言をして話題となったが、実際にNFTをリリースしている本人がこうした発言をするのがHFらしい。


現代のグレイトフル・デッド? 服を売るように音楽を売りたい“

冒頭でも書いたが、藤原ヒロシらしい捻りの効いたABCRECORDSというネーミングにたどり着いた経緯についても尋ねた。

「名前を付けるときにできるだけ簡単なものというか、あまり意味がないものの方がいいなと思っていた中で出てきました。“Authorized Bootleg Community”は後付けです。カッコつけすぎですかね? 別に“遊びでバカバカしいコミュニティ”のABCでもいいんですけど(笑)」

しかし、その名称は見事にこのNFTプロジェクトの本質を“名を体で”表わしている。この取材日はまさにABCRECORDSのリリース日だったが、24時間以内にこのNFT音源に入札し、落札できた人は、その音源をほぼ自由に使う権利が与えられる。

購入音源のリミックスやサンプリング、配信、さらには申請すればCD化をして販売も可能になる。まさにアーティスト自らが“Bootleg(海賊版)”を推奨するような建て付けになっているというわけだ。

この仕組みは1960〜70年代を中心にアメリカのヒッピーカルチャーを牽引したバンド、グレイトフル・デッドに通じるものがある。グレイトフル・デッドは音楽著作権の仕組みに対抗し、ほとんどの楽曲の著作権を早々に手放した。“デッドヘッズ”と呼ばれるファンが勝手に録音したライブ音源の販売を認め、著作権料や原盤使用料も求めず、ファンが作ったロゴ入りのタイダイTシャツや“デッドベアー”の販売までも認め、その売上をもとに「ファンがライブに足を運んでくれること」を優先した。

HFは「グレイトフル・デッドのその手法は知らなかった」と言うが、自分自身がその情報を取り入れることもなく、インディーズ時代にすでに著作権放棄を実践していたと話してくれた。

Crue-L Recordsのインディーズから出している時は、僕の音源はJASRACを通していなかったんですよ。『JASRACを通さないとラジオやテレビで音楽が使われても収益が入らない』とか言われるんですけど、そもそも僕の音楽は100万枚売れるわけでもないし、ラジオとかで沢山かかるわけでもない。仮に誰かが使いたいってなったら、勝手に使わず何か声をかけてくるだろうと思っているし、自分の曲を自分で使えなくなったりするのも面倒臭いから」

その後のメジャーレーベルや現在のサカナクションのNFレーベルから音源を出すようになってからはJASRACを通すようになっているというが、今回のABCRECORDSの成り立ちには、上記のような藤原ヒロシの音楽著作権に対するパンクでアナーキーな思考が反映されているのは間違いない。

それはかつてのDJなどの経験が反映しているのかと聞くと、それは否定し、他のミュージシャンとは明らかに異なる、HFならではの答えが返ってきた。

「やっぱり洋服をやっていたことの方が大きいです。Tシャツを売ったりするのと同じで、物を売るように音楽を売ってもいいんじゃないかなと。例えば1000円で売ったら、卸値が700円で、ショップが300円儲かるような分かりやすい世界ですよね」


これからの偽物と本物、NFTが変えるかもしれない世界

今回ABCRECORDSからは、藤原ヒロシによるインストの新曲5曲をベースに、各10パターン自らがアレンジも手がけた計50曲がリリースされた。NFTであることの必須要素である、「それぞれが唯一無二」であることはもちろん担保されている。

インタビュー冒頭で藤原ヒロシは「必要のない人は買わなくてもいいもの」と言っていたが、逆に「この音楽NFTを必要する人はどんな人であって欲しいのか」を聞いてみた。

「例えばインスタとかでBGMとして使ってくれたり、自分のテーマ曲みたいに使ってくれたらいいなと思いますし、色々なトラックメーカーの発表の場になっても良いと思います」

今後ABCRECORDSでは藤原ヒロシだけでなく、他のミュージシャンやトラックメーカーの参入も歓迎しているが、取材時点ではまだ何も決まっていないという。

それにしてもNFTは純粋な疑問を投げかけてくるものだと、インタビューをしながら感想を持った。サブスクリプションなどの普及によって、“所有する”という感覚が変わってきた時代に、また人は”唯一無二のNFT”を所有する欲が高まってきているとも読み解ける。

そんな素朴な疑問を藤原ヒロシにぶつけると、「NFTについてほとんど分かっていない」と言いながらも、物の価値とNFTの価値をシンプルに分析してくれた。

「僕もよく分かっていないけど、みんなが言っているWeb3.0ってそういうものなんじゃないですか? 例えば今までって、HERMESのバッグをレンタル屋で借りてきて、いかにも自分が持っているようにインスタに上げて、終わったら返すとか、買って自慢したらすぐにメルカリに売るとかっていうのがあったかもしれない。でも今後全部ブロックチェーンになってタグ付けされるようになったら、それが出来なくなりますよね。そうやって可視化されていくのかもしれないし、中にはあえて偽物の方を選ぶ人も出てくるかもしれない。面白いですよね」

最後に藤原ヒロシに「今回の音楽NFTや数々のコラボレーション含め、なぜ次々と新しい物事にトライできるのか」という前々から思っていた疑問を投げかけてみた。

「それはやっているものだけに目が行くからだと思いますよ。僕が手を出さないものもいっぱいありますから。ゴルフだって一切やらないですしね(笑)」

藤原ヒロシ  Hiroshi Fujiwara

1980年代よりクラブDJを始め、1985年に高木完とともにTINY PUNXを結成し、日本のヒップホップ黎明期にダイナミックに活動。1990年代からは音楽プロデュース、作曲家、アレンジャーとして活動の幅を広げる。2011年より真心ブラザースの倉持陽一とのAOEQ、INO Hidefumi、OKAMOTO'S、ユナ&ユウキ(CHAI)、渡辺シュンスケ(シュローダーヘッズ)、三浦淳悟(ペトロールズ)、番長(ワンダフルボーイズ)などのミュージシャンと新たなバンドスタイルでの演奏活動を継続的に行う。サカナクションの山口一郎とは不定期で音楽番組や配信も行い、現在音源はNFレーベルからリリース。ワールドワイドなストリートカルチャーの牽引者としての顔も持ち、ファッションの分野でも絶大な影響力を持つ。

[INFOMATION]

ABCRECORDS
https://abcrecords.inc

[編集後記]

約15年前にこのHONEYEE.COMを発起人としてスタートし、ウェブメディア黎明期に世界的な知名度と影響力を生み出してくれたのが藤原ヒロシさんだ。もちろんこのメディア以外でもその先見性と実績は多くの人が知るところだが、そのヒロシさんが音楽やNFTに関してどのように考えているのかを知ることの出来た貴重な取材となった。実は個人的にもまだまだ分からないことだらけのNFT。この取材で少しはお役に立てたのだろうか。(武井)