JOURNALIST’S EYE #2 SUGARHILL
2022.02.21

次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド5選




Text Kaijiro Masuda(Fashion Journalist)


コロナ禍前は年間250本以上のファッションショーを取材し、数えきれないほどの展示会を長年にわたって見続けているファッションジャーナリストの増田海治郎。彼が「いま知っておくべき日本ブランド」をピックアップしてお届けする不定期連載。「次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド」について5回にわたってお届けする。今回はSUGARHILL(シュガーヒル)。

20代が作るジェンダーレスで色気のあるアメカジ


3年半前に初めてSUGARHILLの服を見たとき「ついに来たかー」と思った。渋カジをはじめとしたアメカジを体験してきた世代の子供が作る服。その時は22歳の若者が作る服としては、あまりにも本格的なアメカジ過ぎて腰を抜かしたのだが、彼の親世代のワードローブを見て育ったのなら何ら不思議はない……と後になって理解したのである。

デザイナーの林陸也は東京出身だが、カナダのバンクーバーで多感な時期を過ごしたと聞いている。様々な文化が入り混じったストリートに屯していた高校時代は、かなりヤンチャをしていたとも聞いた。そしてニューヨークファッション工科大学(FIT)に在学中の2016年、ヴィンテージのリーバイス506XXをネタ元にした自作のツナギを着てパーティに出かけたら、ラッパーのKid Fresinoに気に入られ、彼は「LOVE」のMVでそのツナギを着用した。彼以外にもたくさん欲しいという人もいたし、同様に感銘を受けた林の兄もブランド化を勧めた。その頃にインターンをしていたLANDLORDの元クリエイティブディレクター、川西遼平(現LES SIX・クリエイティブディレクター)の後押しもあったという。

ブランド名は当時住んでいたニューヨーク北部の地名で、世界で初めて商業的成功を収めたヒップホップグループ「The Sugarhill Gang」へ願をかけたというのもある。林は21歳にして周りに後押しされる形でブランドを立ち上げたのだ。

彼の作るアメカジは、素材や細部へのこだわりは基準を超えているが、上の世代からはオーバーディテール(たくさんのデザイン要素が入っている)と捉えられることが多いだろう。自分も否定的には捉えてはいないのだが、どの服もひとつかふたつデザイン要素が多い気がするのだ。そして何よりこれまでのアメカジと違うのは、男らしさの中にどこかジェンダーレスな雰囲気が見え隠れするところ。例えば、2019SSのボーダーとデニムのルックはどこかJEAN PAUL GAULTIER的な匂いがするし、2020-21AWのモヘアニットは床までつかんばかりの長さの同柄のマフラーを合わせたりする。なにか形容しがたい不思議な色気があるのだ。

ここ3シーズンは60年代後半〜70年代前半のヒッピーテイストが強く、よりアメカジ色を増しているように見える。さらには自らの手で作業したハンドメイドピースも増えていて、2021AWにSchottとセレクトショップのLHPとのコラボレーションによるライダースジャケットは、見事なハンドフリンジとメタルが施されていて、まるで70年代にノースビーチレザーが手がけたミュージシャンの衣装のようだった。魚介類による食中毒を意味する“ciguatera”を表題に掲げた2022SSも、テーラードを除けばアメカジ色が強いが、それでもどこか男臭さ一辺倒ではない中性的な雰囲気がある。

この表面的な男らしさと内面的な繊細さ、不思議な色気が共存しているのが、SUGARHILLの最大の魅力であり個性なのだろう。それがとても現代的で、アメカジの経験がない若い世代にも自然と受け入れられているのも頷ける。林は3月の東京コレクションで初めてのランウェイ(もしくはプレゼンテーション)形式での発表を控えている。ランウェイとの相性は良くない、と考えるのが普通だろう。でも私は決してそんなことはないと思っている。

Designer Profile

林陸也。1995年、東京都出身。ニューヨークのFITを卒業後、武蔵野美術大学空間デザイン学科に編入。2019年に同学科を主席で卒業。FIT在学中の2016年に自身のブランドSUGARHILLをスタート。2021年に東京ファッションアワードを受賞。3台を所有するバイクマニア。

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